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松江地方裁判所 平成2年(ワ)134号 判決

大阪市西区新町3丁目14番13号

原告

日本交通株式会社

右代表者代表取締役

澤巖

《住所略》

原告

澤廣行

右両名訴訟代理人弁護士

伊丹浩

松江市灘町65番地2

被告

日本交通株式会社

右代表者代表取締役

田川孝雄

右訴訟代理人弁護士

平山茂

木村修治

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

被告の平成2年5月15日開催の定時株主総会(以下「本件総会」という。)における第40期貸借対照表、損益計算書及び利益金処分案承認の決議を取消す。

第二  事案の概要

本件は、被告の株主である原告日本交通株式会社(以下「原告会社」という。)及び同澤廣行(以下「原告澤」という。)が、平成2年5月15日に開催された本件総会において、株主として質問権を行使したのに対し、被告が説明義務を尽くさなかったとして、右説明義務違反による決議方法の法令違反もしくは決議方法の著しい不公正を理由に右総会においてなされた決議の取消しを請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

1  当事者及び関係者

(一) 被告は、旅客自動車運送事業などを目的とする株式会社であるが、資本金4800万円、発行済株式数96万株、株主数7名の商法上の小会社(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律22条1項)であり、定款において株式譲渡制限の規定を設けている。本件総会時における被告の代表取締役は田川孝雄(以下「田川社長」又は単に「田川」という。)であり、その他の取締役として石村巖(以下「石村」という。)、中島大一、田中信一(以下「田中専務」又は単に「田中」という。)及び新谷栄が就任していた。(甲5、乙2、弁論の全趣旨)

(二) 原告らは被告の株主であり、平成2年3月20日現在における被告の株主構成は、原告会社が16万5000株(持株比率17.19パーセント)、原告澤が3万4997株(同3.65パーセント)、島根日本交通株式会社(以下「島根日交」という。)が31万6221株(同32.94パーセント)、日交整備株式会社(以下「日交整備」という。)が10万9567株(同11.41パーセント)、株式会社クラウンタクシー(以下「クラウンタクシー」という。)が19万8221株(同20.65パーセント)、石村が5万5998株(同5.83パーセント)、田川が7万9996株(同8.33パーセント)である。(甲5、乙2、弁論の全趣旨)

(三) 本件総会前後の時期において、島根日交は、代表取締役として田川、取締役として藤井薫、田川益行、田川堅持が、クラウンタクシーは、代表取締役として田川、取締役として新谷栄、田川益行、田川堅持が、日交整備は、代表取締役として田川及び森山文二、取締役として田川益行、田川堅持、田中がそれぞれ就任し、さらに被告の関連会社である株式会社日交工芸(以下「日交工芸」という。)は、代表取締役として田川及び講武逸人、取締役として田川益行、田川堅持が、株式会社日本交通旅行社(以下「日交旅行社」という。)は、代表取締役として田川及び田中、取締役として中島功、霜村憲司が、日交商事株式会社(以下「日交商事」という。)は、代表取締役として田川及び中島功、取締役として田中と森山文二がそれぞれ就任していた(甲6ないし8、証人田中信一〔以下「証人田中」という。〕、弁論の全趣旨)。

2  被告は、平成2年5月15日、松江市東朝日町278番地3所在の被告事務所において本件総会を開催し、第40期貸借対照表、損益計算書及び利益金処分案承認の決議(以下「本件決議」という。)を行なった。

3  被告は、平成2年4月28日付けで、本件総会(第40期定時株主総会)を同年5月15日午前10時に前記被告事務所会議室にて行なう旨、当日の議題は、報告事項として営業報告書報告の件、議決議案として計算書類承認議案の件である旨を各株主に通知した。

原告らは、本件総会に先立ち別紙質問事項目録記載の事項及び関連事項について質問を行ないたい旨記載した質問事項書(以下「本件質問事項書」という。)を、平成2年5月2日付けで被告に送付するとともに(同月4日に被告に到達)、同月2日、第40期附属明細書及び現行定款を閲覧し謄本の交付を受け、総勘定元帳、経費元帳、銀行勘定元帳、金銭出納帳を閲覧し、これらを写真により接写した。

4  本件総会には、原告会社代理人澤志郎(以下「澤代理人」という。)、原告澤、田川、島根日交代理人藤井薫、日交整備代表者森山文二、クラウンタクシー代理人新谷栄及び石村の株主7名全員が出席し、田川が議長を務めた。

5  本件総会は報告事項と計算書類承認議案とを続けて審議することになり、被告担当者山本義二三が第40期決算報告書案を朗読し、続いて原監査役から監査報告が行なわれた後、原告澤において本件質問事項書を朗読し、同書面記載の各質問に対して被告の田川社長及び田中専務が一括して以下のとおり回答した(甲1、乙5、証人澤志郎〔以下「証人澤」という。〕、同田中)。

(一) 営業報告書の報告に関して

(1) 別紙質問事項目録一・1の質問(別紙質問事項目録記載の質問については、その項目のみにより以下略記する。)に対し、去年、一昨年、今年、来年と体制が変わることはない、こういうスタイルで当分行きたい旨回答した。

(2) 一・2の質問に対し、指導体制、業務分担も従来通りと回答し、従来通りの意味については特に回答しなかった。

(二) 計算書類承認議案について

(1) 部門別・地区別の収支状況等について

二・1の各質問に対しては、包括的に、島根日交は県下で一番業績の良い松江市及びその周辺の八束郡で営業しているのに対し、被告は島根県全般(松江市、安来市、出雲市、大田市、江津市、浜田市、益田市、玉湯町、大社町、美保関の宇井、神西沖町、広瀬町、三隅の13か所の地域)で営業しており、全県下で平均すると営業成績の差はやむを得ない旨回答し、比較の前提が誤解されていることを理由として個別の質問に対しては具体的に回答しなかった。

(2) 関連会社との関係について

〈1〉 二・2・(一)・(1)の質問に対して、人事政策、命令系統については明確になっているので矛盾等はないと理解している旨一括して回答した。

〈2〉 二・2・(一)・(2)及び(二)の各質問に対して、費用の点については誤解を招いた点等があったが、その都度改善しており、第39期までの計算書類については株主総会で承認されている、第40期については、NTT広告の分担金120万円、事務所経費の分担金60万円の合計180万円を関連会社から受領している、電話広告についてはこの次の発行分からは被告、島根日交、クラウンタクシーを除いたものについては全部削除すべく手配している、費用分担契約は必要ないと考えて締結していない旨一括して回答し、関連会社の分担金の内訳は第37期株主総会における答弁では全て人件費だったのに何故このように変わったのか、人をどのようにしたのかとの追加質問に対しては回答しなかった。

〈3〉 二・2・(三)・(1)ないし(3)の各質問に対し、相互利用であって、3社共通の利益を受けているという観点から、従来通り無償として、しかも被告らの見るところでは完全ということを考えていて、使用料等はなく無償協定であると考えている旨回答し、同(1)及び(2)の各質問に対しては具体的に回答しなかった。

〈4〉 二・2・(四)の質問に対し、関連会社等とも正常な取引をしており、経費としても正確に処理している旨回答した。

〈5〉 二・2・(五)の質問に対し、貸付金は第40期には残として残っていない、金利については高い低いの問題があったが、第39期までは承認を得ており、第40期も従来通りの金利で前半までに処理等は完了している旨回答した。

(3) タクシー代行について

二・3の質問に対し、タクシー代行は、タクシー売上に対し3ないし4パーセント弱の持ち出しになっており、第39期は2.7パーセントの持ち出しが第40期には3.7パーセントの持ち出しになっていて赤字である旨回答し、澤代理人の実際に数字を挙げて欲しいという介入質問に対しては、その必要がないと考え準備していないとして回答しなかった。

(4) 簸川郡大社町大字杵築東所在の土地に関して

〈1〉 二・4・(一)の質問に対し、

Ⅰ 植木、158万5824円(平成2年3月20日現在の残高、以下同じ)、昭和49年6月(取得年月日、以下同じ)、

Ⅱ 庭園、13万6699円、昭和52年1月20日、

Ⅲ 植木、15万1891円、昭和52年2月10日、

Ⅳ 庭園、7万7678円、昭和52年3月16日、

Ⅴ 庭石、52万6411円、昭和52年3月28日、

Ⅵ 造成工事、35万8609円、昭和52年7月20日、

Ⅶ 庭石、380万8732円、昭和52年11月17日、

Ⅷ 駐車場整備、131万5513円、昭和53年9月20日、

Ⅸ 植木、12万8631円、昭和54年3月19日、

Ⅹ 庭園、166万5358円、昭和54年8月10日、

ⅩⅠ 植木、49万2562円、昭和55年4月20日、

ⅩⅡ 庭石と石、48万7477円、昭和55年7月7日、

ⅩⅢ 駐車場整備、92万0183円、昭和56年4月20日

であり、位置は、Ⅹ以外は全部大社町神苑東側に被告が取得保有する土地の中にあり、Ⅹは西側にある旨回答した。

〈2〉 二・4・(二)の質問に対し、田中専務は、田川社長の供述が正確である、当該土地を買収している事実に間違いはなく、ただその土地の所有者であった安田が名義変更に応じてくれておらず、未登記であるが、交渉を継続すべく努力をしており、被告の保有地と一帯のものとして管理している旨回答した。

〈3〉 二・4・(三)の質問に対し、昨今は観光事情も随分変わり、大社町における観光客の流入等も随分減っているという状況からして当初の目的通りのものはできないのではないか、経営等の問題も含めて大変難しい問題ではないかと理解し、慎重に取り組まなければならないと考えている、全く放置している訳ではなく、一生懸命考えているのでご理解頂きたい旨回答した。

〈4〉 二・4・(四)・(1)の質問に対し、この問題については裁判所でも申し上げているし、本件総会の議案と関係がないとして回答しなかった。

〈5〉 二・4・(四)・(2)の質問に対し、境界の確認には田中専務が立会したが測量には立会しておらず、測量は終わっていると思うが、町役場が測量を行なったのか一般業者が行なったかは確認していない、利害関係人は二十数名になり、境界の確認に立会したのは森宗、森山作市の息子、江角八郎、大社町、出雲大社であり、測量に立会した訳ではない、公図の訂正、地積の訂正等の手続が完了したという報告はまだ受けていないができる見通しはほぼ立っており、本年度中にはできるようお願いしている旨回答した。

〈6〉 二・4・(四)・(3)の質問に対し、松江に事務所を持つ福田不動産鑑定士に前年の終わりごろ出雲大社に売却する目的で鑑定評価を依頼し、平米当たり約8600円という鑑定結果であった旨回答した。

〈7〉 二・4・(四)・(4)の質問に対し、現在も交渉中とのみ回答し、内容については回答しなかった。

(5) 松江地方裁判所昭和63年ワ第41号事件(以下「別訴事件」という。)に対する補助参加について

二・5の質問に対し、会社が負担すべきものは会社が負担し、それ以外のものはそれなりに個々に負担して貰っている旨回答した。

(6) 利益金処分案について

二・6の質問に対し、継続的安定配当を目指している旨回答し、澤代理人からの「今回配当金を3円から5円にアップしたが、役員報酬のアップや過少資本であることから見てそれで足りると考えているのか。」という追加質問に対し、田川社長が、役員報酬は8年も据え置きでやってきた、被告は、同社長らが爪に火を灯すような経営をして利益を出し、株主から何ら持ち出すことなく、その余剰金を資本金に回して現在は4500万円になった訳で、株主に迷惑を掛けて投資の金を持ち出して会社を増資して貰ったというような会社ではない、会社が長く続くように一生懸命やっていることを理解して頂きたい旨回答した。

6  原告らは、昭和62年5月16日、同63年5月16日及び平成元年5月16日に各開催された被告の第37期、第38期及び第39期各定時株主総会においても本件総会と同様、事前に質問事項書を提出の上、被告取締役に対し多数の質問を行ない、その結果、株主総会終了時刻は、第37期定時株主総会は午後4時5分、第38期定時株主総会は午後7時となった。第39期定時株主総会及び本件総会では被告取締役は原告らの質問に対し一括回答方式を採り、第39期定時株主総会の終了時刻は午前11時40分、本件総会は正午であった。(乙4、7の1ないし3、8の1、2、23の1、2、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)

7  原告らは、昭和63年4月、被告取締役である田川、石村、中島大一、田中、新谷栄を相手取り、被告が昭和41年から同44年にかけて買収した島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の土地のうち町道真名井矢野線西側の土地についての事後措置に任務懈怠があったことを理由として取締役の責任を追及する株主代表訴訟である別訴事件を提起し、被告は、昭和63年6月3日付けで右訴訟の被告側に補助参加するとの申立てをした。そして、平成3年1月23日、松江地方裁判所は別訴事件について原告の請求を全部棄却する旨の判決を言い渡した。(甲30ないし32、乙28)

二  争点

1  被告取締役が原告らの質問に対してなした回答が説明義務の履行として十分か否か及び被告が回答を拒否した事項について正当な拒絶事由の有無(説明義務の範囲)

(一) 総論的主張

(1) 原告らの主張

〈1〉 株主が質問権を行使する場合、計算書類に記載されている事項だけに限られず、その意味内容を理解するために必要があれば計算書類に直接記載されていない事項についても質問できるし、説明のための準備に必要な程度にその質問が特定されておればよく、当該質問が計算書類のどの事項に関するものであるかを株主において指摘する必要はない。しかも、実際に原告らの行なった各質問事項が何を対象にするものかは後記のとおり明らかであり、だからこそ被告も従前の総会及び本件総会において質問事項についてそれが何を尋ねるのかという疑問を呈したことがないのである。

〈2〉 原告らと被告との関係

被告は、昭和25年の設立から昭和48年5月まで20年以上にわたり、原告会社を中核とする日交グループに属していたこと、その後も被告は同一商号で同じサービスマークを用い、原告の関連会社の営業地域である鳥取県に隣接する島根県で同種営業を営んでいること、原告会社及び被告の従業員の各労働組合も関係が深いこと、原告会社と被告はタクシーチケット事業や共済事業及び厚生年金基金においても密接な関係があることなどの事情が存し、被告の経営がおかしくなれば日交グループ全体に悪影響を及ぼすおそれがあり、しかも、原告らは被告の発行済株式の約20.8パーセントを有しているため、原告らは被告会社の経営状態に強い利害関係を有している。

〈3〉 被告の規模

商法上の大会社については、会計監査人により詳細な監査がなされ、計算書類について正確性が担保され、その反面、営業報告書のみならず貸借対照表、損益計算書も原則として報告事項とされているのであり、また、株式が公開されている公開会社に対しては、証券取引法において作成、縦覧が義務付けられている有価証券報告書によっても会社の状況に関する情報が開示されることになる。

これに対し、被告の規模は前記第二・一・1・(一)のとおりであり、典型的閉鎖会社であるから、被告の取締役の説明義務は、公開会社や大会社に比べてより広くなるものと解するべきであり、計算書類承認議案における説明義務の範囲を貸借対照表、損益計算書などの内容に限り、かつ、附属明細書の記載を限度として説明すれば足りるとする被告の主張は失当である。

〈4〉 被告の株主構成

原告らを除く被告の株主は、島根日交、クラウンタクシー、日交整備、石村及び田川(持株割合の合計は約79.2パーセント)であるところ、右3社の代表取締役はいずれも田川であり、石村は被告の取締役であって、いずれも田川の支配下にあるため経営に対するチェック機能を期待できない。しかも、被告の株主構成は10年間にわたって基本的に変動しておらず、株主の持株比率は最小株主である原告澤でも3.65パーセントに及んでおり、実際に質問権を行使した株主は原告らのみである。したがって、被告にあっては、原則として1000人を超える零細な浮動株主の存在が予定されている公開会社について本来想定されている概念である平均的な一般株主を基準にして説明義務の範囲を画することはできず、原告らを基準として説明義務の範囲を画するべきである。

〈5〉 計算書類承認議案における説明義務の範囲が被告主張のように附属明細書の記載を限度とするとすれば、附属明細書の閲覧・謄本交付請求権に加えて、株主に質問権を認めた趣旨が没却される。

〈6〉 被告主張のように、計算書類承認議案における説明義務について営業報告書、貸借対照表や損益計算書の記載につき附属明細書の記載を限度として説明すれば足りると解したとしても、計算書類、附属明細書の記載に不備、不足がある場合や、計算書類の内容が矛盾する場合には、これを補完する説明をなす義務があると解すべきところ、被告の計算書類などには、原告らが質問した事項について後記のような記載の不備などが認められるのであるから、被告取締役に説明義務がある。

〈7〉 被告は、会計帳簿等の閲覧謄写により原告らには質問権行使の必要がなくなったと主張するが、会計帳簿等によって明らかになるのは業務執行状況のうち会計面に限定されるし、会計面についても附属明細書ないし被告取締役の説明がなければ完全には理解できない。しかも、写真で接写した会計帳簿の写真のプリントを入手したのは平成2年5月11日の金曜日であったから、原告らには十分な検討時間がなかった。

(2) 被告の主張

〈1〉 商法237条の3第1項但書の規定は、株主総会における取締役の説明義務は、株主が会議の目的たる事項について合理的な理解や議決権行使に当たって合理的な判断をなすための資料収集のために認められたことを示しており、かつ、合理的な理解ないし判断についての必要性は、平均的な一般株主を基準として判断されるべきである。したがって、この範囲を超えて会社の業務及び財産に関する一般的な情報開示を求めることはできない。右必要性を欠く質問は、商法237条の3第1項但書の「会議の目的たる事項に関せざるとき」もしくは「その他正当の事由あるとき」に該当するので、被告に説明義務はない。

〈2〉 そして、右説明義務の範囲を計算書類の報告あるいはその承認議案についてみると、営業報告書、貸借対照表、損益計算書の記載について疑義などがあれば、これらの計算書類を補完する附属明細書の記載を限度として説明すれば足り、附属明細書に記載されていない事項、特に会計帳簿などの調査により初めて知り得る事項は説明義務に含まれない。そして、原告らの提出した質問事項書の計算書類の承認に関する質問事項は、いずれも説明義務の範囲、程度を超えてなされたものであり、被告の前記一括回答はむしろ説明義務の範囲、程度を超えてなされたものと評価でき、説明義務違反はない。

〈3〉 被告は、商法上の小会社であるから、参考書類規則の適用はなく、参考書類を作成する義務はないし、株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則(以下「計算書類規則」という。)45条3項により、被告の作成する営業報告書は同条1、2項所定の事項を記載する必要はなく、附属明細書も同規則46条、47条の限度で記載すれば足る。なお、同規則46条1項が記載を求める重要事項は通常の場合は特段存在せず、被告のような小会社にあっては、同条2項の会計方針を変更した場合にはその理由、及び同規則47条1項各号の事項を記載すれば足りるのである。

〈4〉 株主は計算書類の記載に関連して不明の点等について質問することを要するのであって、具体的に計算書類の箇所を特定ないし指定していなくても、当然その質問内容から関連する計算書類の箇所が一義的に特定されることを要するところ、原告らの計算書類承認議案に関する質問事項は、後記のとおり、いずれも計算書類の具体的な箇所を特定したものでないばかりか、その内容の不備、矛盾を指摘したものでもない。原告らは、被告から質問事項についてそれが何を尋ねるのかという疑問を呈したことがないと主張しているが、被告は専ら議事の円滑な進行を図り、万が一にも説明義務の不履行により決議取消等の混乱を招いてはいけないとの配慮から、過去の同種質問の内容ないし傾向から質問の趣旨をできるだけ善意解釈して誠意をもって回答してきたに過ぎない。

〈5〉 会計に関する事項が理解ないし把握できれば計算書類の承認に当たり必要な情報としては十分である。そして、計算書類は会社資産の構成状態を明らかにしたり(貸借対照表)、損益の状態を明らかにしたり(損益計算書)、あるいは会社の営業過程と成果を報告するために(営業報告書)作成されるものであり、これらはいずれも会計帳簿に基づいて作成されるものであるところ、原告らは承認決議の対象となっている本件計算書類の基となった会計帳簿を閲覧謄写し、その全容を把握していたから、その賛否に合理的な判断をするのに必要な情報は入手していた。

(二) 一・1、2の各質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 計算書類規則45条1項5号は営業報告書に「会社が対処すべき課題」の記載を要求しており、右規定は小会社には適用されないことになっているが、計算書類規則が会社が株主に提供すべき情報を定型的に定めたものであることに鑑みれば、少なくとも右は取締役の説明義務の範囲に含まれる。そして、原告らは、被告が第40期営業報告書において今後の不安要因が多々存することを明らかにしていることに基づいて前途多難が予想される被告を今後どのような体制で運営していくのかを「田川社長の後継問題」も含めて「会社が対処すべき課題」として質問したものであり、右質問は説明義務の範囲に含まれる。

〈2〉 田川は、本件総会の時点において古稀(70歳)を迎えており、不測の事態に備える後継体制を準備しておくべきである。

仮に田川の健康状態に問題があって任期を全うできない恐れがあるなどの特段の事情のない限り、田川の後継者についての質問に対し説明義務がないとしても、被告の株主は原告らを除けば田川が代表取締役を兼任している島根日交、クラウンタクシー及び日交整備の法人3社と被告の取締役である石村及び田川本人しかおらず、被告においてはその株式の大部分を支配している田川の意向によって後継者の選任を行なうことが出来るのであり、換言すれば、もし後継体制が出来ていないうちに田川に不測の事態が生じればたちまち被告の経営が混乱する危険性があることに他ならず、これは被告に説明義務を認めるべき「特段の事情」である。

〈3〉 原告らが「責任の所在」について質問したのは、永年にわたって被告の建設仮勘定に計上されたまま放置されていた大社町大字杵築東の土地の問題など被告が当面する問題についての責任の所在が極めて曖昧であったため責任の所在を明確にするよう求めたものであり、これについて被告の田川社長が「指導体制、業務分担とも従来通りであります。」と発言するのみで、澤代理人の「いや、従来通りが分からない。」との再質問に対して何ら応答しなかったのは説明義務違反である。

(2) 被告の主張

右質問はいずれも議題と関連性がない。

仮に経営体制につき概括的な説明が要求されるとしても、被告取締役は前記一・5・(一)のとおり従来どおりである旨回答している。

(三) 二・1の各質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 バス、タクシーの部門別の収支状況等の質問が損益計算書の「旅客運送収入」、「旅客運送事業営業費」及び附属明細書の「減価償却明細書」に関するものであることは明らかであり、質問の特定を要するとしても特定に欠けるところはない。

〈2〉 道路運送法29条は「一般旅客自動車運送事業者は、その事業年度、勘定科目の分類、帳簿書類の様式その他の会計に関する手続について運輸省令で定めるところに従い、その会計を処理しなければならない。」と規定し、これを受けて平成2年改正前の一般自動車運送事業会計規則(以下「運送会計規則」という。)5条1項は一般自動車運送事業者に対し、損益計算書については営業損益を「一般自動車運送事業」と「その他事業」に区分した上、「一般自動車運送事業」については更に一般乗合旅客(路線バス)、一般貸切旅客(貸切バス)、一般乗用旅客(タクシー)、一般路線貨物、一般区域貨物に区分して収益、費用及び損益を記載することを要求しており(同規則別表第二第1号様式)、右道路運送法29条及び運送会計規則5条1項は、許認可事業であるバス、タクシー及びトラック事業における「事業年度、勘定科目の分類、帳簿書類の様式その他の会計に関する手続」を定めるものであるから、商法の株式会社の計算に関する規定の特別法たる地位に立ち、その運送会計規則において事業別の収益、費用及び損益を記載した損益計算書の作成が要求されているのであるから、被告は運送会計規則に基づいて作成した損益計算書を株主に交付する必要があるところ、被告は事業別に区分されていない損益計算書を株主である原告らに交付したのであるから、バス事業とタクシー事業のそれぞれの収益、費用及び損益を株主に説明する義務を負う。

〈3〉 また、運送会計規則は、「一般自動車運送事業営業費明細表」について事業別に営業費の明細を記載することを要求し(同規則別表第二第5号様式)、収益、費用及び固定資産のそれぞれについて、関連科目毎に事業別の配分基準並びに配分率を「各事業に関連する収益及び費用並びに固定資産の配分に関する明細表」に記載することを要求しており(同表第9号様式)、右「一般自動車運送事業営業明細表」及び「各事業に関連する収益及び費用並びに固定資産の配分に関する明細表」は、同規則5条1項により「財務諸表」として作成されるべき書面であるから、附属明細書と評価されるべきものである。しかるに、これらの書面は原告らに交付されていないから、これら書面の記載事項について被告取締役には説明義務がある。

〈4〉 関連会社とのタクシー1台当たりの所得格差

被告のタクシー部門については、第38期における被告と島根日交とのタクシー1台当たりの所得を比較すると、島根日交が被告の3.05倍になるという極めて重大かつ不可解な疑問があり、これは営業所別の数字を把握しなければ解明できない問題であるから二・1の各質問に対し被告には説明義務がある。

被告の後記反論は、タクシーの経費においては人件費の割合が大きく、その人件費においては営業収入に比例する歩合給の部分が大きいので営業収入が変動しても利益率はさほど変わらないのが実情であること、被告の反論によれば被告保有タクシーのうち島根日交と同じ松江地区で営業している車の1台当たりの所得額は島根日交の1台当たりの所得額と同じことになるが、そうであるとすれば、松江地区とそれ以外の地区とでは1台当たりの所得額が3倍以上に広がることになり、いよいよ不可解な結果となることに照らせば、失当であり、原告らの質問の前提には何ら誤りはない。

〈5〉 同じ旅客運送事業であっても、バスは固定費部分が多く、タクシーは費用のほとんどが変動費であって事業の性格が異なり、かつ運輸行政上もバスとタクシーに区分した営業費明細表の作成、提出が求められているように、株主が被告の経営状態を把握するにはバス部門とタクシー部門の部門別の収支状況を知る必要があるし、タクシーについては本件総会において被告の田中専務が、県下では営業成績の高いところと低いところで相当差がある旨述べており、地域別、営業所別の内訳についても把握しなければ事業の遂行状況を把握できないから、このような被告の営業形態の特殊性に鑑みると、計算書類規則45条2項に基づき、被告は営業報告書には部門別の収支を記載すべきであり、部門別の営業成績等のいわゆるセグメント情報に関して説明を要する。

〈6〉 バス部門においては、必要もないのに日交旅行社を通すことによって同社に対して不当な利益供与が行なわれている疑いがあり、右疑問を解明するにはバス部門の間接人員や経費の明細等を把握する必要がある。

〈7〉 タクシー部門については、被告が松江市東朝日町営業所の無償提供と同様に管理職、配車係、営業課、車輌課及び修理工についても島根日交、クラウンタクシーの費用負担なしで兼任させることにより右2社に不当な利益供与を行なっている疑いがあり、これは被告の営業所別の管理職の人数、その他間接人員数、経費の明細を明らかにすることによって解明することができる。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではない。

〈2〉 バス部門とタクシー部門の個別の経費の明細などは、経費元帳等の会計帳簿を調査して初めて明らかになるものであるから、被告に説明義務はなく、精々部門別の概況を説明すれば足るものであり、その限度では被告は説明義務を履行している。また、タクシー営業所の配置情況についても前記一・5・(二)・(1)のとおり13か所を説明している。

〈3〉 原告らの主張は、要するに被告のタクシー1台当たりの売上が関連会社である島根日交のそれと比較した場合、3分の1以下であるのは同じ松江地区で営業しているのにおかしいではないかという指摘であるが、これは営業地域が同じであるという前提が間違っており、被告の営業地域は、松江市だけでなく島根県全域にわたっている。

〈4〉 被告が本件総会で提出して承認を求めているのは決算報告書中の貸借対照表、損益計算書等の計算書類であり、これらは商法、計算書類規則、企業会計原則等の法令に基づき適式に作成されたものであるから、会社の株主に対する謄本交付義務や説明義務等はこれら商法等に準拠した計算書類に基づいて履行すれば足りる。

道路運送法等の法令に準拠して作成しなければならない財務諸表は、商法上の会計帳簿、計算書類とはもともとその本来の作成目的が異なり、専ら運輸行政的観点からの規制が加えられたものであり、これら運輸行政上作成が義務付けられ、あるいは報告等が要求されている財務諸表の内容が直ちに商法上の各種義務の範囲を画するものではない。

「各事業に関連する収益及び費用並びに固定資産の配分に関する明細表」にいう費用の配分は、各事業部門毎に不可分の費用であっても、適正な基準として行政通達により、例えば総走行比(燃料費等)、実在日車比(施設使用料等)等で按分するように指示されているものであるが、これは前記のように運輸行政上の目的達成のため一つの監督手段として部門別の成績を見る一つの目安として作成されるものであり、費用・収益対応の原則という公正な会計慣行からすれば多分に擬制的なものであって、これを商法上の計算書類とは別に原告らに開示しなければならないものではない。

(四) 二・2・(一)、(二)の各質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 二・2・(一)、(二)の各質問のうち、担当者の所属等に関する質問が損益計算書の「一般管理費」、「雑収入」及び附属明細書の「雑収入の内訳」に関するもの、経費分担に関する質問が損益計算書の「雑収入」及び附属明細書の「雑収入の内訳」に関するものであることは明らかである。

〈2〉 右質問は、以下の理由から、被告と島根日交、クラウンタクシー、日交整備、日交商事、日交旅行社、日交工芸との間において、これら関連会社の負担すべき諸経費を被告が負担することにより、被告の損失において右関連会社に不当な利得を与えている可能性があり、被告の運営状況の適否の判断には関連会社間での経費分担などを知ることが不可欠であり、その具体的な内容の説明を求めたものであって、被告取締役には説明義務がある。

Ⅰ 被告と右関連会社はいずれも田川が代表取締役を兼任している上、島根日交、クラウンタクシー、日交整備及び日交工芸は田川の実弟田川益行と子息の田川堅持が取締役に就任し、クラウンタクシーは被告の新谷栄取締役が取締役を兼任し、被告の田中専務が日交整備及び日交商事の取締役と日交旅行社の代表取締役を兼任し、島根日交、クラウンタクシー、日交整備は、合計して被告の発行済株式の約65パーセントを保有しているなど対外的に田川グループとして活動している。

Ⅱ 被告と島根日交は同じ松江地区で営業しているにもかかわらず、島根日交のタクシー1台当たりの所得額が被告のそれの3.05倍にも上る。

Ⅲ 本件総会で被告から説明のあった島根日交及びクラウンタクシーから受領している経費分担金180万円のうちの事務所諸経費の分担金60万円について、被告の本件経費が第39期においては6360万円であり、第40期においては6911万円である事実に照らして過少といわざるを得ない。

Ⅳ タクシー代行について、田中専務は被告と島根日交及びクラウンタクシーの3社で代行共同組合を結成しており、タクシー代行にかかる費用は右3社で分担していると説明したが、被告の帳簿を見るとタクシー代行に要する費用は代行共同組合宛てに支払われているのではなく、支払先に直接支払われており、これについて田中専務も説明できない。

〈3〉 被告が原告会社の管轄下にあったのは昭和48年5月までであり、それ以前においても情報の提供は必ずしも十分なものではなく、関連会社との経費分担などについて原告らが知悉していた事実はない。

〈4〉 被告取締役の本件総会における経費分担に関する説明には、従来の株主総会において触れられていなかった電話広告料も含むとしている点で従来の株主総会における説明と明らかに矛盾しており、そのように説明が変わった理由についての澤代理人の補充質問に対して一切説明しなかった。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は、抽象的に、配車・庶務・会計の3業務の配置状況を知らせよとか、関連会社にどのような経費を分担させているかというものであり、計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではなく、質問自体から計算書類のいかなる箇所に関する質問かも判明しないので、被告取締役に説明義務はない。

〈2〉 経費負担金180万円に関連する質問があるが、右経費負担金に関しては、第37期にも質問を受け、その際被告取締役は、被告の従業員に島根日交、クラウンタクシーの経理事務を担当させていたのでその人件費の趣旨であると回答したところ、安いとの批判や広告費の負担について指摘を受けたので、第38期には、右従業員を2名ずつ(庶務・会計各1名)各社に移籍し(なお、配車係は当初から各社に専属で配置されていた。)、その給料は各社の負担とし、人件費負担の明確化を図った。しかし、島根日交、クラウンタクシーの管理部門の仕事を被告の執務室で行なっていたためその事務諸経費として金60万円、被告の出しているNTTの電話帳の広告欄に右2社の名前を掲示していたのでその分の負担として金120万円の計金180万円の経費負担金を残したのである。このことは、第38期定時株主総会において説明しており、本件総会においても同様の趣旨で前記一・5・(二)・(2)のとおり回答したのであり、また、費用分担をしない関連会社については、次回発行分の電話広告から削除する予定であることも併せて説明した。

(五) 二・2・(三)の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 右質問が損益計算書の「雑収入」及び「附属明細書」の「雑収入の内訳」、「地代家賃の内訳」に関するものであることは明らかである。

〈2〉 右質問事項は、原告らが相互無償使用の可否を判断する前提であり、これについて被告は一切説明せず、澤代理人の再質問に対しても一切説明しなかったのは説明義務違反である。

〈3〉 各社が相互利用を行なっているとしても物件の所在、面積、施設等によりそれぞれの利用権の内容には差異があるはずであり、また、各社が保有する物件の利用権が等価でなければその差額を精算する必要がある。更に、仮に各社の利用権が等価であるとしても株式会社である以上、その利用権は有償であるのが原則であり、したがって仮に相殺によって現実の使用料のやりとりは生じないとしても契約としては賃貸借契約になるはずであり、被告が賃貸借契約でなく、使用貸借契約を締結するのは不可解であるから、このような具体的な疑問を呈示した上での原告らの右質問に対して具体的な回答をしなかったのは説明義務違反である。

〈4〉 被告、島根日交及びクラウンタクシー3社間の運輸協定が昭和47年に締結されたものであることには疑問があるし、仮に同年に締結されたとしても澤春蔵ないし澤巖はそれを知らなかった。

〈5〉 被告は本件総会の後、相互無償使用から賃借権契約を締結することに変更したが、これは従前の無償使用が適正な経理処理でなかったことを被告が認めたことに他ならない。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は具体的な計算書類の箇所を特定してなされたものではないし、また、右質問が被告とクラウンタクシー、島根日交との3社協定(無償)についてのものだとしても、決算書類の承認と関係がなく、被告に説明義務はない。

〈2〉 右協定は澤春蔵及び澤巖ら原告代表取締役が被告の代表取締役を兼務していた当時、道路運送法20条に基づく運輸協定としてなされたものであり、昭和47年に澤巖が担当して広島陸運局に申請し運輸大臣の認可を得ている。恐らくこのような経緯から附属明細書に記載しなかったのではないかと思われるが、少なくともこのような会計処理は田川が被告代表者の地位を継承してからのものではなく、原告らが知悉している事柄に関するものである。

〈3〉 そこで、被告は、澤巖の後を継いだ田川社長の下でも、不動産評価等から3社とも相互利用により完全に共通の利益を受けていることが確認されたので、そのことを主眼において従来どおり無償であると回答したものであり、被告に説明義務違反はない。

(六) 二・2・(四)の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 右質問が附属明細書の「未払金の内訳」に関するものであることは明らかである。

〈2〉 被告は島根日交、クラウンタクシーに対し車庫を提供しているほか、日交整備に車両整備を請け負わせ、日交商事から燃料を購入し、日交旅行社から旅行斡旋を受けて斡旋手数料を支払い、日交工芸に看板などの製作を請け負わせている。

そして、右各社はいずれも田川が代表取締役に就任しているから、被告と右各社との間の取引は商法265条1項後段に該当するので、計算書類規則47条1項10号により、その取引の明細を附属明細書に記載することを要する。

にもかかわらず、被告会社の附属明細書には関連会社との取引について一切記載がなかった。

〈3〉 原告らは昭和48年5月に被告が原告会社の管轄下を離れて以後は被告の経営に全く関与しておらず、右から本件総会までに16年もの歳月が経過しており、被告と関連会社の資本関係も変化が生じているから、従前の形態の踏襲のみを理由に説明義務を否定することはできない。

〈4〉 田中専務の供述では、日交整備については整備業界の基準よりも安くして貰っていると言うだけで、具体的な業界基準額や日交整備の価格との比較については把握していないし、日交商事については郡部はともかく松江地域においては他の燃料業者と交渉したこともないし、日交旅行社については、同社に対し斡旋手数料として20パーセントを超える金額を支払っており、この支払のために被告のバス部門の売上が赤字になっていたなど関連会社との取引によって被告が不利益を被っていないとはいえない。

〈5〉 原告らは本件総会以前において、日交旅行社の取扱手数料を再三にわたって問題にしてきている。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は抽象的で具体的に計算書類の箇所を特定してなされたものではなく、被告に説明義務はない。

〈2〉 右質問が被告と日交商事等4社との取引に関するものであれば、法的には経費の明細を尋ねるのに等しいものであるから説明義務はない。

〈3〉 そもそも右4社は被告と取引をするために必要があって設立されたものであり、右取引は、原告の代表取締役であった澤春蔵が被告及び右4社の取締役をしていた当時から、被告の利益確保に寄与するものとして行なわれてきたものであり、それが澤巖の時代を経て、経理処理も含め現在まで踏襲されてきたものである。したがって、被告は当初より取引内容を附属明細書に記載しておらず、このような会計処理が一貫して行なわれてきたものである。

計算書類規則47条1項10号により開示の対象となるのは商法265条にいう取引であり、取締役の裁量により会社に不利益を与える可能性のないものは含まれないところ、日交商事、日交整備、日交工芸との取引はこれら3社が被告以外の他社と取引する場合よりは必ず低廉にすることで反復継続して行なわれており、実質的に被告に不利益な取引でないし、日交旅行社との取引も取扱手数料として独自取扱分は相場並みに13パーセントから15パーセント、他社斡旋分は原告会社の例に倣い7パーセントと定率の取り決めになっているから、これも実質的には自己取引に該当しない。

〈4〉 右取引の仕組、内容は原告らの知悉している事柄に属し、原告らが要求している取引の明細は膨大な量に上るから、株主総会の場で説明することはできない。原告らは、かねて会計帳簿の閲覧謄写により必要な情報を入手しているのであるから、被告としてはこれを前提に、本件総会における回答程度で足りる。

(七) 二・2・(五)の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 右質問は附属明細書の「貸付金の内訳」及び「受取利息の内訳」に関するものであることは明らかである。

〈2〉 右質問は被告から関連会社への不当な利益供与の疑いがあるので事実を明らかにするために行なったものであり、関連会社との取引と同様取締役の自己取引の問題として商法265条1項後段及び計算書類規則47条1項10号により、その取引の明細を附属明細書に記載することが要求されるから、期中に終了したことをもって金利、貸付金額、従前の返済状況その他について一切説明しなかったことは説明義務違反である。

〈3〉 被告は従前の株主総会において貸付金の利率についてきちんとした説明をしてこなかった。

〈4〉 被告が本件総会に際して配布した附属明細書に記載されているのは貸付金の利息の金額及びその受入れ年月日のみであり、利率あるいは期中における返済状況等は一切記載されていないから、原告らとしては、前期末の貸付金残高が内入れ弁済等により変化せず、利息の受入れ年月日が貸付金の返済年月日であり、返済が一括返済であるとの仮定を置かなければ右貸付金の利率を計算できない。

〈5〉 第40期において被告が支払っている借入金の利率は被告の附属明細書によれば年7.6パーセント、年7パーセントまたは年4.9パーセントのいずれかであるから、右借入利率に比較して被告のクラウンタクシーに対する貸付金の利率は低廉過ぎ、不当な利益供与に該当するのか明らかであるから、被告取締役には説明義務がある。

〈6〉 クラウンタクシーに対する貸付金の利息の決定には、澤巖は関知していない。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は被告と関連会社との金銭貸借の状況につき、その明細の説明を求めるという一般的形式でなされており、特定性に欠ける。

右質問が被告のクラウンタクシーを買収した当時の貸付金についてのものであれば、それは附属明細書の法定記載事項ではなく、説明義務はない。

〈2〉 右貸付金は、当初澤春蔵及び澤巖が仮払いで始めたものを、原告会社の指導により貸付金にして利息を徴求することにしたものであり、その利息は被告の銀行借入利息を基準にして決定せよとの原告会社の指示でおおよそ4パーセントの利息を徴求していたものであり、右貸付については原告らも知悉している。

〈3〉 右貸付金については、原告らに配布した資料により貸付金の残高、利息の額、金利等は明瞭である。

〈4〉 利息については、これまでの総会で何度も説明しており、その折に原告らから高い安いが問題にされたが、銀行借入金の金利を参考に取り決めた旨説明してきたので、既に説明済みであるから、従来通りであるとの回答に止めた。

(八) 二・3の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 右質問は、タクシー代行の問題のうち収入が附属明細書の「雑収入の内訳」に、支出が損益計算書の「一般管理費」に関するものであることは明らかである。

〈2〉 タクシー代行は被告のタクシー営業に付随してはいるが、別個独立の営業活動であるから、その収支状況について株主や監督官庁が関心を抱くのは当然であり、損益計算書について、事業を「一般自動車運送事業」と「その他の事業」に区分した上で、それぞれの事業毎の収益、費用及び損益を記載することが要求され(運送会計規則別表第二第1号様式)、「各事業に関連する収益及び費用並びに固定資産の配分に関する明細書」について複数の事業に関連する収益、費用並びに固定資産に関して関連科目毎に配分基準及び配分額を「自動車運送事業」と「その他事業」に区分して記載することが要求されており(同表第9号様式)、被告自身もタクシー代行を計算書類規則45条1項により営業報告書への記載が要求される「主要な事業内容」ないし「会社が対処すべき課題」と認識していたことは明らかである。

〈3〉 被告の第40期の附属明細書の「雑収入の内訳」にはタクシー代行の収入のみが明記され、これを生み出すために要する経費が記載されておらず、しかも、本件総会を含め、第41期定時株主総会以前の株主総会においては、被告には経費の「持ち出し」が生じているといっていたが、原告らにおいてタクシー代行の経費は一般管理費の雑費の中に計上されているとの被告の説明に基づいて被告の帳簿からタクシー代行の費用項目を合計した数字とタクシー代行の収入とを比較すると黒字になり、右矛盾について原告らが説明を求めても被告は何ら回答せず、タクシー代行の支出の総額すら説明しない状態が継続しており、平成3年12月18日に行われた松江地方裁判所平成元年ワ第108号事件の証人尋問に至って田中専務は、経理担当者に調査させたところ、タクシー代行の経費として計上すべき人件費が代行の経費として上がらずにタクシーの運転手の給料の項目に含まれており、これが5~600万円あることが平成3年9月11日以降になって分かったと供述したことなどから、被告取締役にはタクシー代行の収支について具体的な説明を行なう義務が存していた。

〈4〉 被告はタクシー代行の費用の大部分を一般管理費の雑費の項目に計上しているが、運送会計規則4条に基づいて同規則別表第一が定める勘定科目によれば、一般管理費は、「本社その他の管理部門に係る費用」に計上しなければならないはずであるから、独立の事業であるタクシー代行の経費を一般管理費に計上するという被告の右処理はそもそも運送会計規則に違反した違法不当なものであり、このような会計処理を行なっている結果、被告においては第40期についてみれば一般管理費のうち雑費が全体の4分の1近くを占める最大科目になっており、一般管理費のうち人件費を除いた「経費」の4割以上を雑費が占めるという到底理解し難い状況になっている。

〈5〉 タクシー代行がごく小規模な事業であるとはいえ、被告の売上の数パーセントを占め、株主総会における計算書類承認議案が取締役の経営責任明確化機能を有することに鑑みれば、損失を出し続けながらこのような付随的事業を継続するとの被告取締役の経営判断の是非を問う前提として、少なくとも収入のみならず支出の総額についても原告ら株主に開示されるべきである。

(2) 被告の主張

右質問は計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではない。

(九) 二・4・(四)・(1)の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 右質問は、附属明細書の「建設仮勘定」に関するものであることは明らかである。

〈2〉 右質問は、建設仮勘定に計上されている大社町大字杵築東所在の土地に関するものであるが、右土地については長年にわたり所有権移転登記を経由することもできない状態で推移してきているのであり、かつ、その処理をめぐって訴訟が提起され、被告が右訴訟に利害関係人として補助参加しているから、右土地の問題は当然に「会社の現況」(計算書類規則45条1項1号)ないし「会社が対処すべき課題」(同条1項5号)として営業報告書に記載されるべきところ、営業報告書には右に関する言及がない。

〈3〉 右質問は貸借対照表に資産として計上されている右土地が実際に被告に帰属しているのか否かという、まさに貸借対照表の記載の真実性及び資産の実在性に関する事項であり、右質問が説明義務の範囲、程度を超えるとの被告の主張は誤っている。

〈4〉 被告の田中専務は右質問に対して「この問題については、裁判所でも申し上げているところでございますし」と発言しているが、そもそも裁判所において建設仮勘定記載の土地の権利保全策について説明がなされた事実はないし、仮に何らかの説明が行なわれたとしても、裁判における説明をもって株主総会における説明に代えることはできない。

〈5〉 建設仮勘定記載の土地に関する被告の対応はその場しのぎの繰り返し以外の何物でもない。

(2) 被告の主張

建設仮勘定の内訳として、その土地の所在、数量等を質問するのであればともかく、それ以上に進んで権利保全策等についてまでの説明義務はない。

この西側の土地については、その管理方法をめぐって原告会社から被告取締役を相手取って取締役責任追及の訴えである別訴事件が提起され、係争中であったもので、その訴訟の中で被告の管理内容なり、土地取得に関する法的見解を述べており、原告らは十分に承知している。

(一〇) 二・5の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 被告は別訴事件に補助参加しているのであるから、右質問事項は、計算書類規則45条1項1号の「会社の現況」ないし同条1項5号の「会社の対処すべき課題」として営業報告書に記載すべき事項であるが、被告の第40期営業報告書には記載がなかった。

〈2〉 右質問が損益計算書の「一般管理費」に関するものであることは明らかである。

〈3〉 被告取締役個人が被告である別訴事件に被告が補助参加した場合には、取締役個人が負担すべき訴訟関係費を被告に負担させる、いわゆるお手盛りの危険がある。したがって、右質問事項は計算書類規則47条1項10号に照らし、附属明細書に記載すべき事項であるが、被告の第40期附属明細書には記載がなかった。

(2) 被告の主張

右質問は、計算書類の具体的な箇所を特定してなされたものではなく、説明義務の範囲、程度を超えるものである。

(一一) 二・6の質問について

(1) 原告らの主張

〈1〉 右質問は、被告の配当政策についての質問であり、利益金処分案に関するものであって、参考書類規則3条1項5号によれば、利益金処分の「議案作成の方針」すなわち配当政策を参考書類に記載しなければならず、右記載事項は小会社においても取締役に説明義務がある。

〈2〉 被告は前期の第39期に比して2円増配しながら、この配当金額を決定した理由については前期におけると同様継続的安定配当を目指しているとしか説明しなかったが、第40期において前期の配当政策を変更している以上、その変更の理由について説明義務がある。

(2) 被告の主張

被告取締役は、右質問に対し必要な回答を行なっており、説明義務違反はない。

2  原告らの質問権行使は権利濫用に当たるか

(一) 被告の主張

本件総会における原告らの質問権の行使は、以下の理由から権利の濫用に該当し、あるいは、説明拒絶につき商法237条の3第1項但書の「その他正当の事由あるとき」に該当し、被告取締役に説明義務違反はない。

すなわち、原告らは、関連会社との間の取引のいきさつや協定内容を熟知していたし、また、計算書類・会計帳簿類の閲覧謄写や過去の株主総会における説明などにより、被告の経理の概況について十分な知識を有していた。にもかかわらず、原告らは、膨大な質問事項書を事前に提出してその準備に当たらせ、株主総会においても、被告の対応が良心的であることを奇貨として、不必要な質問により株主総会を長時間化させる実績を作り、例えば第37期では6時間、第38期では9時間、を要し、本件総会ではそのために一括回答方式を採用したがそれでも2時間を要しており、被告取締役らに多大な労力、負担をかけてきたものであって、本件質問権の行使は被告の経営混乱ないし困惑を企図し、あるいは、田川に対する嫌悪感による辞任要求を目的とする悪意のものである。

(二) 原告らの主張

(1) 第39期の株主総会は1時間40分、本件総会は2時間であり、しかもその冒頭においては営業報告書、貸借対照表、損益計算書及び利益金処分案の朗読と監査報告とに相当の時間が費やされているし、更に本件総会においては原告らの質問事項書を原・被告のいずれが読み上げるかをめぐって10分間位押問答があり、また質疑応答に入ってからも大半の時間は被告の回答拒否をめぐってのやりとりに費やされているのであるから、右をもって「長時間」とはいえない。

(2) 本件総会における原告らの質問事項は、いずれも取締役が当然に把握しているべきものばかりであり、右質問により被告の経営が混乱したりすることはありえない。

3  裁量棄却の主張

(一) 被告の主張

説明義務の範囲に関する判断は、最終的には司法判断に委ねられるべきであるが、一次的には議長、二次的には説明を求められた各取締役にあるのであって、田川、田中が本件総会において説明義務の範囲外であると答弁したのは右の趣旨で、被告の健全な運営と全株主の利益を考えてのことであり、会社を詐害し、個人の利益を図る意図は存在せず、その判断も著しく合理性を欠くものではなかったし、仮に決議の方法などに違法とされる部分があったとしても、その瑕疵は軽微であり、特に関連会社との取引については、本件総会で前記第二・一・5・(二)・(2)・〈4〉のとおり説明したのに対し、原告らは会計帳簿を閲覧謄写し取引内容の概要を知っていながら具体的な矛盾点等を指摘しておらず、必要な情報を入手していたことが明らかであるから、商法251条の裁量棄却が相当である。

(二) 原告らの主張

被告と関連会社及び田川や原告らを除く被告のその他の株主との関係は既に述べたとおりであり、田川や田中は田川やその支配する関連会社の利益のみを考えて回答を拒否したのである。このように、被告取締役は、当然に取締役の説明義務の及び事項について、特段の事情もなく説明を拒否したのであるから、右説明拒否は重大で決議に影響を及ぼすことは明らかであり、裁量棄却の余地はない。

第三  争点に対する判断

一  説明義務の総論的主張(争点1の(一))について

1  株主総会の権限は株式会社の最高の意思決定機関として決議により会社の意思を決定することにあり、商法237条の3に規定する取締役などの説明義務の趣旨は株主が会議の目的事項について賛否を決するために合理的判断をなすに必要な情報を提供することにあると解される。したがって、取締役などの説明義務は、合理的な平均的株主が会議の目的事項を理解し賛否を決して議決権を行使するに当たり合理的判断をするのに客観的に必要な事項について、そのために必要な範囲において認められるものと解するべきであり、質問事項が議題の合理的な判断に必要な事項であるかどうか、取締役が議題の合理的な判断に必要な程度に説明をしたかどうかの判断は合理的な平均的株主の立場を基準に客観的に判断されるべきであり、質問株主や説明した取締役などの主観を基準にすべきではない。但し、質問株主が平均的株主より多くの知識を有していることが明らかな場合には、そのことを前提に説明を簡略化して差し支えないと解する。

2  これに対し、原告らは、原告らと被告との間に密接な関係があること、被告の株主構成が、原告らと被告を支配する田川一派とに分かれており、原告らは少数派であるものの被告の発行済株式の約20.8パーセントを有していることなどを理由として、被告には平均的株主は存在せず、原告らを基準として説明義務の範囲を画するべきである旨を主張する。右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、原告ら主張のような事情があれば、前記1の範囲を超えて説明義務が認められるべきであるとか、説明義務の範囲について原告らの主観をも基礎とし、原告らが納得するまで説明すべきであるなどという趣旨であれば、既に判示した説明義務の範囲、基準に照らし採用することはできない。もし、説明義務の範囲が個々の株主との間で個別的、相対的に判断されるのであれば、その判断が極めて困難となり、合理的、円滑な議事運営が困難となるからである。

3  さらに、計算書類承認議案に関する説明義務の範囲につき検討すると、計算書類承認決議は、会社の計算が正当なものであると認め、これを法的に確定するとともに、利益の配当及び準備金の積立、取崩をする決議であり、株主はこれを通じて取締役を監督する機会を得ることにもなる。計算を正当なものと確定するためには、株主総会において会社の概況が明らかにされなければならず、合理的な平均的株主が会社の概況を正確に理解し、議案に対する賛否の合理的判断をなすに必要な情報のみが議題と実質的に関連するものとして説明義務の対象となる。  そして、説明義務の範囲は、商法が一般的に開示を要求している事項を一応の基準と考えることができ、商法及び計算書類規則に基づき作成される貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書の記載事項や参考書類規則により大会社の招集通知に添付すべき参考書類の記載事項が一般的な開示事項に当たるものと解することができる。

したがって、原則としては右各書面に記載されるべき事項が説明義務の範囲を画するものと考えられ、細かな計数や会計帳簿などを調査して初めて知り得るような事項は原則として説明義務の範囲外にあると解するべきであるが、他方、計算書類承認決議には、株主による取締役の監督という側面もあることは既に説示したとおりであり、会社の個々の財産につき、取締役の違法行為の存在が疑われるべき相当な事情がある場合には右範囲を超えた説明を必要とする場合があると解するべきである。

なお、被告は小会社であるため、計算書類規則の一部の規定及び参考書類規則については適用がないが、右記載事項は商法などが一般的に開示を要求する事項であるから、小会社においても説明義務が及ぶと解するべきである。また、原告らは、有価証券報告書を引合いに出して説明義務の範囲について主張するが、商法その他の規定が特に附属明細書の記載事項を定めていることから総会に提出されるべき計算書類の明細としては右の事項で十分であると解することができ、それ以上に、証券取引法が有価証券に対する投資者の保護等のために、公開会社に作成、縦覧を義務付けている有価証券報告書の記載事項を参考にして説明義務の範囲を考える理由はない。

4  営業報告書など計算書類の報告も、会社の概況を明らかにするとともに取締役の責任の明確化のための情報を提供する機能を営むから、これも説明義務の対象となり、計算書類承認決議の場合に準じてその説明義務の範囲、程度を考えれば足りる。

二  各質問事項に対する説明義務違反の有無について

1  一の各質問について

原告らの右各質問事項は、田川の後継者問題を除くと必ずしも意味が明確ではないところ、この点につき原告らは、前途多難が予想される被告の今後の体制を田川の後継問題を含めて質問したとか、大社町大字杵築東の土地問題の責任の所在が不明であると主張する。しかしながら、抽象的に今後の経営体制といっても、具体的に何について質問しているのかが不特定・不明確であるし、一般的に全体構想や指導体制、業務分担ないし責任の所在という文言で抽象的に表現される事項の全てを説明する義務はない。さらに、第40期営業報告書記載の今後の不安要因に対する対策や土地問題の担当者が誰であるかを問うことが右質問の具体的目的であるといった趣旨説明は、本件総会において原告らからなされていないし、また、説明義務の対象とはならない。原告らは、田川の年齢を理由として不測の事態に備えるべき旨を主張するが、田川の健康状態に問題があって任期を全うできない恐れがあるなどの特段の事情のない限り、田川の後継問題がそもそも会社の対処すべき課題であるとは解することはできず、田川の後継者についての質問に対し説明義務はないと解するべきところ、右の特段の事情の主張立証はないから、被告取締役に説明義務違反はない。

2  二・1の各質問について

(一) 原告らの道路運送法、運送会計規則に基づく説明義務の主張について

道路運送法29条が、一般旅客自動車運送業者に対し、その事業年度、勘定科目の分類、帳簿書類の様式などについて運送会計規則に従った会計処理をすることを要求していることは原告ら主張のとおりであるが、同法は道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより道路運送の総合的な発達を図り、もって公共の福祉を増進するという行政目的に立ち(同法1条)、その実現のために、一般旅客自動車運送事業者に対して管轄陸運局長または管轄陸運支局長への営業報告書提出義務を課し、右報告書は運送会計規則所定の様式に則った財務諸表とすることとしていること(同法126条1項、旅客自動車運送事業等報告規則2条)、別表の様式に従えない場合は管轄運輸局長の承認にかからしめていること(運送会計規則4条2項、5条3項)に照らせば、同法における会計特則は専ら運輸行政的見地からする監督手段の一環として捉えるべきである。そして、株主総会は、運輸行政的見地とは関係なく純粋に個人的経済的利益を追求する株主による、営利社団法人たる会社の内部的な意思決定の場であることを併せ考えれば、株主総会において承認を求めるべき損益計算書等の計算書類などについてまで、同法の運輸行政目的からする様式等の規制により拘束されると見る必要はなく、他の事業目的の会社と同様、商法や計算書類規則等に準拠して作成された計算書類であれば足りると解すべきであり、したがって、取締役の説明義務の範囲も一般的にはそのようにして作成された計算書類を基準として判断すべきものと解される。

(二) 二・1・(一)の質問について

(1) 右質問中、バス部門の認可車輌台数は第40期附属明細書として原告らに交付された平成元年度科目内訳表(乙6)中の減価償却明細書に記載されたバスの台数で概況把握でき、運送収入も第40期損益計算書にタクシー部門と区別して記載されているから(乙2)、これらについては本件総会における具体的な説明義務の範囲を論ずるまでもなく、被告取締役において説明する必要はない。

(2) バス部門の管理職や乗務員、その他の従業員の人数などについては、通常会社の概況を把握し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報であると解することはできない。

計算書類規則45条1項1号(小会社には適用なし。同条3項)が従業員の状況について営業報告書に記載することを要求しているとしても、部門別・業務内容別の記載までを常に要求するものとは解することはできず、特段の事情のない限り、取締役等の説明義務は及ばないと解されるところ、本件においてその特段の事情を肯認し難い。原告らは、関連会社に対して被告が不当な利益供与を行なっている疑いを解明するためにバス部門の間接人員や経費を明らかにする必要があると主張するが、後述するように右疑いが相当な理由があるとは認められない上、そもそも右質問はそのような具体的な指摘に基づいての質問ではないことに照らして右特段の事情があったとはいえない。

(3) また、バス部門の経費の明細についての質問が必要性の要件を満たすものであるかについて、原告らは、バスとタクシーは同じ旅客運送業務であるが、前者の経費は固定費部分が、後者の経費は変動費部分がほとんどを占めていること、運輸行政上両部門を区別して収支の報告が求められていることなどを理由として、被告の営業状態を把握するためには部門別の収支状況を知る必要があり、計算書類規則45条2項、1項2号(小会社には適用なし。同条3項)は部門別の営業の経過及び成果を記載することを要求していると主張する。

しかしながら、右規定にいう「営業の経過及び成果」とは、生産、受注、仕入れ、販売などの経過及び実績、その他その営業年度に生じた重要な経営上の出来事を意味し、これを概括的に明らかにすれば足り、経費の明細や前期との増減の状況を明らかにすることまでは要求していないものと解される。

そして、被告作成の営業報告書には、バス部門及びタクシー部門の各営業の概況が記載され、また損益計算書には両部門の収入が個別に記載されており、同書面及び旅客運送事業営業費の内訳表には両部門を区別してはいないものの、費用の総額及び内訳が記載されており(甲22、41の2、乙2、33)、部門別の営業の経過及び成果は明らかにされていたものといえる。

しかるところ、原告ら主張のようにバス部門とタクシー部門とで事業の性格が異なる部分があるとしても、その一事をもって経費の明細まで知らなければ計算書類承認議案について合理的判断をなしえないということはできないし、また、バス部門の営業費の内訳が計算書類規則46条1項により附属明細書に記載することを求められている事項であると解することもできず、右規定を根拠に右事項が説明義務の範囲内に属するということはできない。さらに、運輸行政上バス部門とタクシー部門とを個別に報告することが要求されているとしても、そのことが直ちに株主に対する説明義務の範囲を画するものではない。

よって、右質問につき被告取締役に説明義務違反があるとは認められない。

(三) 二・1・(二)の各質問について

(1) 二・1・(二)・(1)の質問について

前記第二・一・5・(二)・(1)のとおり、被告取締役は、原告らの質問に応じて、タクシー部門の13か所の営業地域を説明しており、これは営業所の配置状況の説明として十分なものと認められる。

(2) 二・1・(二)・(2)の質問について

原告らは、タクシー部門に関しては地域別、営業所別の収支状況などを把握しなければタクシー事業の実情が把握できないし、計算書類規則45条1項1号が営業報告書に営業所や従業員の状況を記載することを要求していることからも、右質問事項につき説明義務がある旨主張する。

しかしながら、旅客運送事業を営む被告のタクシー部門について営業所別に本件質問事項書記載の各事項を知ることが、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報であると解することはできない。

原告らは、被告と関連会社たる島根日交とのタクシー1台当たりの所得較差を指摘して、両社間の不当な利益供与の有無を解明する必要性を強調するが、タクシー1台当たりの所得でいえば、被告のそれは松江一畑タクシー、ミツワタクシーと比較しても3分の1以下であり(甲19)、松江一畑タクシーもミツワタクシーも島根県西部には営業所を置いてはおらず、島根日交と同様の地域的営業条件であると窺われ(甲20、21)、そうすると、島根日交の所得が同一地域で営業する同業他社に比して格別過大なものともいえず、したがって、被告と島根日交とのタクシー1台当たりの所得較差をもって不当な利益供与の存在を疑わせるものとは認められない。よって、原告らの右の疑いを前提とする主張は、その前提において首肯し難い。

また、計算書類規則37条ないし48条などの規定も、各営業所について質問事項のような細かな記載を常に要求しているものと解することはできず、被告取締役の説明義務を基礎付けるものではない。

3  二・2の各質問について

(一) 二・2・(一)・(二)の各質問について

右各質問は、要するに、被告と関連会社との人件費その他の経費の分担につき説明を求める趣旨であると解されるところ、本件総会において、被告取締役は前記第二・一・5・(二)・(2)・〈1〉、〈2〉のとおり回答している。

また、証拠によれば、以下の事実が認められる。

被告取締役は、第37期定時株主総会において、被告が島根日交及びクラウンタクシーの各社から徴収している経費負担金180万円について原告らから質問があったので、右金員は、島根日交及びクラウンタクシーの経理・総務・企画統計などの管理業務を被告が一括して行なっていたので、その経費として女子社員1.5人分の人件費を負担させており、それが経費負担金180万円である旨説明した。これに対し原告らから低廉過ぎるとの批判や、NTTのタウンページやハローページの広告欄に被告及び島根日交、クラウンタクシーなどが一緒に掲載されていることにつき、その費用に関する疑問が出た。そのため、被告は、島根日交、クラウンタクシーの管理業務を行なっている従業員2名ずつ(庶務・会計各1名)を各社に移籍し、それぞれの人件費はそれぞれの会社で負担させることとし、同時に、右広告費として各金120万円、島根日交やクラウンタクシーの管理業務を被告の事務所において行なわせていることから事務消耗品などの雑費として各金60万円を負担させることとして、経費負担金180万円はそのまま残す取扱いをなし、第38期定時株主総会において、原告らからの質問に応じて、その旨田中が説明した。(甲14、18、乙33の1、2、30の1ないし4、32、証人田中、弁論の全趣旨)

これに対し、澤証人は、第38期定時株主総会において、田中より右のような説明を受けたことはないと証言し、平成元年ワ第108号事件の証人調書(甲31)にも澤代理人の同趣旨の証言が記載されているが、他方、同証人は、第38期定時株主総会において、被告と島根日交、クラウンタクシーの庶務会計関係の担当者の人員につき説明があったことを認める証言をしていること(147項)、また、右証人調書には、同人が、右経費負担金に関する説明が第37期と第38期で変わったことや第37期において同人自身が経費負担金に関する質問に引続き電話帳に掲載された広告の費用負担について質問した旨を証言した記載があることや、右事件の証人調書(乙30の1ないし4)の田中の反対趣旨の証言記載部分及び証人田中の証言に照らし、たやすく信用できない。

以上によれば、本件総会での回答内容及び従前の株主総会での説明を含めれば、被告と関連会社との人件費その他の経費の分担は、補充質問に対応する事項を含め、必要な限度で明らかにされているものと認めることができる。

また、原告らは、被告と島根日交及びクラウンタクシーとの間の経費分担につき疑念があるかのごとく主張しているが、被告の第40期における人件費以外の一般管理費が6360万円であるとしても、そのことから関連会社の分担金年間60万円という額が過少であるとは一概には言えず、そもそもそのような具体的な指摘をした上での質問は本件質問事項書はもとより口頭による追加質問でもなされていないから、右質問に対し、田中が、前記の程度の回答をなすに止まったとしても不十分なものとはいえない。

なおまた、宣伝広告費のうち、NTT関係の広告費については、島根日交及びクラウンタクシーが年間120万円の経費分担をなしているというし、その余の関連会社については、電話帳広告から削除することを本件総会で約束している。

さらに、証拠によれば、被告は、少なくとも平成3年11月11日ころまで、BSS山陰放送ラジオに、男性の声で「島根県下に16の営業所、皆様の暮らしに役立つタクシーの日本交通の提供でお送りします。」と前置し、その後電話の擬音で始まるコマーシャルを流していたことが認められる(甲29の1、2、乙22の3、30の1ないし4)が、「島根県下に16の営業所」と謳うコマーシャルが島根日交やクラウンタクシーをも宣伝する目的に出たものとは認められないし、客観的にも右の宣伝文句が右両社のために宣伝効果を有するとは思われない。  右認定によれば、島根日交及びクラウンタクシーが負担すべき経費をことさら被告が負担しているとは認められない。

なお、タクシー代行の経費分担については、本件総会でその問題を指摘した具体的質問はなされたことは本件証拠上認められず、その点につき説明義務を肯認し難い。

以上によれば、被告取締役の説明義務違反を認めることはできない。

(二) 二・2・(三)の各質問について

(1) 二・2・(三)・(1)の質問について

被告の行なった個々の取引について契約書を作成したか否かは、特段の事情のない限り計算書類承認議案との間に関連性を有するとは認められないところ、右の特段の事情を肯認し難いから、田中が前記第二・一・5・(二)・(2)・〈3〉のとおり右質問に具体的に回答しなかったとしても説明義務を怠ったとは認められない。

(2) 二・2・(三)・(2)、(3)の各質問について

原告らは、右質問は、被告と関連会社との相互無償使用の可否を判断する前提として質問したものであると主張する。

そこで、検討するに、被告が、その所有不動産について、株主である島根日交及びクラウンタクシーとの間で使用貸借契約を締結していることは被告の自認するところであり、車庫や営業所の3社相互乗り入れにつき、運輸協定として運輸大臣の認可を受けているとしても(乙30の1、証人田中)、その内容は必ずしも明らかでない上、右認可は公衆の利便の観点からなされるものであって(道路運送法18条2項)、無償の利益供与の規制とは趣旨が異なる。そして、計算書類規則は無償の利益供与個々についてその相手方や金額を常に明示することを要求しているとは解されないものの、利潤追求を目的とする営利社団法人たる株式会社にとって無償の利益供与はその当然に予定するところではなく、商法が、会社が何人に対しても株主の権利行使に関し利益供与を厳重に禁止し、特定の株主に対して利益供与したときは株主の権利行使に関して供与したものと推定していること(商法294条の2、266条1項2号、497条1項)に照らせば、取締役の経営責任明確化機能を有する株主総会における計算書類承認議案の審議においては、取締役が無償の利益供与の種別や種別毎の総額のみならず供与先や供与の趣旨まで具体的に明らかにしなければならないこともありうるというべきである。

すると、本件において、3社間でどの会社がどの不動産を使用しているか、その不動産の使用利益の評価その他賃貸借とせずに使用貸借とした経営政策的配慮などをどの程度具体的に説明する必要があるか否かはともかく、被告と関連会社間の不動産貸借関係について一切説明義務が及ばないとは認め難く、少なくとも被告所有のどの不動産をどの関連会社に無償で使用させ、被告がどの関連会社のどの不動産を無償で使用しているかについては説明すべきであったし、これが特に困難である事情も認められない。

したがって、これについて何ら明らかにすることなく、「相互無償ということは同じ価値ということ前提となっているはずであり、どうして同じ価値と評価したのか」という具体的な澤代理人の追加質問に対してもただ3社共通の利益を受けているというだけであったのは、説明義務を尽くしたとはいえない。

(三) 二・2・(四)の質問について

(1) 原告らは、右質問は、日交整備、日交商事、日交工芸、日交旅行社と被告との間の、車両整備、燃料購入、看板製作請負、旅行斡旋などの取引について質問する趣旨であると主張する。

(2) 証拠によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉 被告は、昭和24年4月8日に設立され、同38年ころ、当時原告会社の代表取締役でもあった澤春蔵が被告の代表取締役に就任し、以後、現在の原告会社代表者である澤巖が同32年ころ取締役に、同47年7月ころ代表取締役に、田川が同28年ころ取締役に、同48年5月ころ代表取締役に順次就任した。澤春蔵や澤巖が被告の代表取締役であった時代、同人らは大阪に居住し、当時常務取締役であった田川が両名の指示を受けて被告の業務を遂行していた。(乙30の1、証人田中、弁論の全趣旨)

〈2〉 日交整備は昭和39年5月24日、被告の整備部門が独立して法人となる形で、日交商事は同46年3月22日、日交整備の燃料部門が分離独立する形で、日交工芸は同45年ころ、個人で看板製作などを行なっていた川原工芸を買収の上法人化させることにより、日交旅行社は同45年9月16日、被告が貸切バス運行に当たり旅行業法に基づく斡旋業者の資格を取るため、それぞれ設立された。なお、これら各社の設立当時の代表取締役はいずれも澤春蔵であり、その後継者として澤巖が代表取締役に就任している。(甲31、32、乙12の1ないし4、13の1、2、14の1ないし4、15の1ないし3、30の1、証人田中、弁論の全趣旨)

〈3〉 被告は、日交整備にタクシーの修理・整備を請負わせ、日交商事から燃料を購入し、日交工芸には看板の製作や店舗の模様替えなどを請負わせ、日交旅行社からは旅行客の斡旋を受けるなどの取引関係を結んでいる。被告は右4社と取引をする際、交渉によって業界の水準に比べて廉価で取り引きすることとしているが、必ずしも一定の基準に従って機械的に値段が決定されるという性質の取引というわけではなく、特に車両の修理などの場合は契約条件は修理内容などの個別的な事情に左右されることとなるが、ある程度は反復、継続的な取引でもあり、特に日交整備、日交商事、日交旅行社との間の取引は大量のものである。なお、設立の経緯から、被告及び右4社の代表取締役が澤春蔵、澤巖及び田川の時代を通じて、右4社との取引は附属明細書にも記載しない扱いで処理されてきた。(乙30の1ないし4、37の1、2、38の1、2、証人田中)

(3) 日交工芸、日交整備、日交商事、日交旅行社の代表取締役が田川であること、被告と右各社との取引内容は必ずしも機械的に内容が決定されるものではないことは既に認定したとおりであるから、株主総会における計算書類承認議案が取締役の経営責任明確化機能を有することに鑑みると、右取引内容の概要については株主に開示されることが望ましく、計算書類規則47条1項10号も右の趣旨に理解することができる。したがって、本件において、原告らの質問のとおり明細を示す必要があるか否かはともかく、被告と右関連会社との間の取引について一切説明義務が及ばないとは認め難く、右取引につき年間取引額や取引内容(継続的取引については包括的でよい。)を説明すべきであったというべく、正常な取引をしていると述べるのみでこの点につき説明をしなかったのは説明義務違反に当たるといわねばならない。

(4) 二・2・(五)の質問について

原告らは、右質問は被告から関連会社への不当な利益供与の疑いを解明するために質問したものであると主張する。

そこで検討するに、被告取締役は、本件総会において、前記第二・一・5・(二)・(2)・〈5〉のとおり回答したところ、証拠によれば、被告は、昭和46年にクラウンタクシーを買収し、資金繰りが苦しい同社に対して被告から仮払金を出捐していたが、同48年ころ、仮払いを貸付に振替え、利率はクラウンタクシーの銀行からの借入金の利息を参考にして定めており、当期は年4.125パーセントであったこと、右貸付については月々いくらという返済条件はなく、第40期中の9月ころ、クラウンタクシーの資金繰りがついた時点で被告が返済を求めて完済させたこと、そして、被告作成の昭和63年度科目内訳表(乙34)には、同年度末(平成元年3月20日)現在の貸付金残高950万円、受取利息35万8535円の記載があり、また平成元年度科目内訳表(乙6)には、被告が同年9月11日にクラウンタクシーから利息18万7885円を受取った旨の記載があり、なお、期末の貸付金の記載はないこと、従前の株主総会において、原告らが右貸付金の利率が低廉であるとの問題を提起しており、この点をめぐって質疑応答がなされていたこと、被告の当期の借入金の支払利息は7.6パーセント、7パーセント、4.9パーセントであることが認められる(甲1、乙5、6、8の2、34、証人田中)。

そうだとすると、被告取締役は、貸付金の利率を数字的に明確には回答していないが、従来どおりの利率であると述べて、従来から原告らが低廉であると批判してきた利率を格別変更していないとの趣旨の回答をなしており、前記各科目内訳表の記載を併せれば、長期継続してきた貸付金についての説明として一応足りており、また、右貸付金についての前記経緯に照らせば、その利率が当期の被告の貸付金のそれより低廉であるからといって合理性を欠くとも認められないから、いずれにしても、この点に関し被告取締役の説明義務違反を肯認できない。

4  二・3の質問について

(一) 右質問につき、本件総会において田中は第40期のタクシー代行の収支の概況として前記第二・一・5・(二)・(3)のとおり回答したところ、被告にとって、タクシー代行自体がごく小規模な事業である上(その収入は金2000万円余りで雑収入として計上されるに止まる。)、収入は被告作成の平成元年度科目内訳表の雑収入の内訳欄に記載されていて明確であり(乙6)、他方、その経費はまさに細かな計数であり、会計帳簿を調べて初めて判明する事項というべきであり、原告らが質問したタクシー代行業務の収支の明細は、会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報と解することはできず、田中の右回答の程度で十分である。また、第38、39期のタクシー代行の収支は、それ自体として本件総会における被告取締役の説明義務の対象とはならない。

(二) これに対し、原告らは、従来の株主総会において、被告取締役がタクシー代行は経費の「持ち出し」であるといっていたが、タクシー代行の経費は総勘定元帳の一般管理費の雑費の項に計上されているとの被告取締役の説明に基づき、原告らが被告の帳簿からタクシー代行の経費を抽出し計算したところ、タクシー代行の収支は黒字となったから、被告取締役はその矛盾につき合理的説明をなすべきであった旨主張する。

なるほど、証拠(甲1、23、24、31、32、43の1、2、47、乙5、30の1ないし4、証人澤、同田中)によれば、田中は第38期定時株主総会において原告の質問に応じてタクシー代行の経費は「一般管理費の雑費の項」に載っている旨説明したこと、原告らが右説明を手がかりに、独自にタクシー代行の収支計算をした結果黒字となり、田川が右株主総会で「10パーセント強の持出しになっている。」と回答したことと一致しない結果となったこと、第39期についても同様であったこと、原告らは本件質問事項書に右の点を付記してタクシー代行の収支状況及び決算書と実情がくい違う場合の理由を質問し、さらに本件総会で田中がタクシー代行の収支の赤字割合のみを回答したのに対し、澤代理人が具体的数字を示すよう求めたが、田中は、準備していないことを理由に経費の明細を明らかにしなかったこと、ところで、被告会社では経理担当者がタクシー代行の収支を計算しており、第38期定時株主総会での田川の右回答並びに第39期定時株主総会及び本件総会での田中の前記回答は右の計算結果に基づくこと、実際には、タクシー代行の経費は「一般管理費」の「雑費」の項に記載のもの以外にも、タクシー乗務員が代行要員として乗務した場合の手当がその賃金に含まれており、これを含めたタクシー代行の収支は、右各期において田川や田中の回答のとおり赤字であったことが認められる。

しかるところ、原告らはタクシー代行の経費の計上についての田中の前記説明を手がかりに独自に収支計算を行ない、その結果が被告取締役の回答と矛盾する旨主張するのであるが、田中が、タクシー代行の経費が「一般管理費」の「雑費」の項に網羅的に計上されているとの趣旨の説明をしたことまでは本件証拠上認められず、したがって、本件総会で被告取締役がタクシー代行の収支が赤字であるとの回答をしたことと原告らの独自の計算結果が一致しないからといって被告取締役の回答に矛盾があることにはならないし、右不一致の原因を解明するためには結局タクシー代行の経費の明細を明らかにしなければならないが、前記説示のとおりタクシー代行につきその収支の明細までの説明義務は本来被告取締役にはなく、このことは原告らが前記のごとき独自の計算結果に基づき明細の説明を求めたとしても変わりがないと解するべきである。なおちなみに、仮にタクシー代行の収支が赤字でなく、原告らの計算どおり黒字であれば、営業を継続するべきか否かという見直しの問題も生じない。よって、原告らの前記主張は理由がない。

5  二・4・(四)・(1)の質問について

右質問は被告が購入した島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の土地のうち町道真名井・矢野線の西側の土地に触れているところ、被告は、昭和41年から同44年にかけて、同所所在の土地76筆を代金1億円余で購入したが、そのうち右町道より西側に位置する土地は、農地法5条の許可がなく被告への所有権移転登記手続未了のままであり、被告の平成元年度科目内訳表(乙6)によると右各土地に関する費用として金1261万4846円が建設仮勘定に残されており、なお、原告会社は右土地の管理についての被告取締役の責任を追及する別訴事件を提起し、本件総会当時、右土地の管理方法の当否をめぐり係争中であった(乙6、28、弁論の全趣旨)。

そこで、被告の説明義務違反の有無について判断するに、会社の個々の資産について権利保全策が講じられているか否かの問題は、その資産の帰趨が会社経営に重大な影響を及ぼすなどの特段の事情がない限り、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な会社の概況情報とはいえず、したがってまた、会社の対処すべき課題として営業報告書に必ず記載すべき事項とも認められない。

また、右質問中後段部分が具体的に何を問題としているのかは必ずしも明確ではないが、農地の所有権移転に関する法律解釈を問題とするのであれば、そもそも取締役の説明義務の対象となるとは認められないし(ちなみに、売買の目的の農地が非農地化した場合、それが買主の責めに帰すべからざる事情による限り、知事の許可なくして売買の効力が生ずることは判例(最判昭和42年10月27日民集21巻8号2171頁、同44年10月31日民集23巻10号1932頁、同61年3月17日民集40巻2号420頁参照)が認めるところである。)、右法律解釈に止まらず、所有権移転登記手続が進まないことをもって右土地が真実被告に帰属しているか否かを疑問とし、この点に関する被告の認識、見解を問うものであるとしても、右土地が所有権の帰属につき係争中の物件であったこと、被告が実際に所有権移転登記手続をとるには種々の困難も予想される状態にあり、その事情については原告会社自身が別訴事件において主張しているとおり、十分な情報を有していたと認められること(乙28)に照らせば、被告取締役が説明義務を負うものとは認められない。

6  二・5の質問について

会社が訴訟に補助参加したからといって、その訴訟費用の支出状況を知らなければ会社の概況を知り、計算書類承認決議の賛否を決するために合理的判断ができないとはいえないし、会社が自社の取締役の責任を追及する株主代表訴訟に補助参加したからといって、直ちに「お手盛り」により取締役が負担すべき訴訟費用を会社が負担するおそれがあると認めることはできず、右補助参加が計算書類規則47条1項10号所定の取引に該当するものとも認められない。

したがって、原告らの主張は失当である。

7  二・6の質問について

株主は会社の実質的所有者であり、利益配当を受けることは株主が会社に投資する重要な目的の一つであるから、配当に関する事項について株主が重大な利害関係と関心を持つのは当然のことであり、配当性向に関する事項は利益金処分案の承認決議に賛否の判断をするに必要な情報と考えられる。したがって、会社は配当政策に関して株主の質問に対し説明する義務があると解するべきである。

そこで、被告取締役の説明義務違反の有無について検討する。

既に認定した事実及び証拠(甲1、31、32、乙2、5、6、30の1ないし4、32、34、35、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)によれば、被告の配当性向は、第37期が13.68パーセント、第38期が7.59パーセント、第39期が約7.32パーセント、第40期が9.8パーセントであり、他方、別途積立金の総額は本件総会の時点で金3億7500万円で、第40期の利益は4897万1303円であり、内金4000万円を別途積立金として社内に留保したこと、第39期定時株主総会において田中が一括回答した際、配当性向や株主への利益還元について特別の考えはないが継続的安定配当に努力したいと回答し、さらに澤代理人の補足質問に対し、田中が配当に対する考えは別に前期と変わっていない旨回答したこと、本件総会において、田中は継続的安定配当を目指す旨回答したことが認められる。

右認定事実によれば、田中は、第39期定時株主総会において、同期の利益の処分に当たり、期間損益を重視して配当性向の向上を目指すのではなく安定配当を重視し、利益の内部留保により経営の安定にも留意する方針であり、この方針は従前から変更がないと被告の配当政策を説明し、本件総会においても、原告らが第40期に至るまでの各期の計算書類の記載により、被告の利益・負債・積立金などの推移について認識していることを前提として、その方針に変更はない旨説明したものであり、説明義務の履行として不十分なものとはいえない。

また、原告らは、第40期の1株当たりの配当額や配当性向がそれ以前の期のそれらと変わっていることを捉えて被告において配当政策の変更があったかのように主張するが、これは継続的安定配当を1株当たりの配当額や配当性向を一切変更しないで必ず一定の配当をすることと捉えることを前提とするものであって、被告が継続的安定配当についてそのような説明をした事実はなく、かかる解釈はおよそ原告ら独自の見解であって到底採用できない。

したがって、被告取締役に説明義務違反はない。

三1  以上によれば、原告らが本件総会でなした各質問のうち、二・2・(三)・(2)、(3)及び二・2・(四)の各質問に対し被告取締役が何ら回答せず、あるいは十分な回答をしなかった点を除いては、説明義務違反は認められない。

他方、被告取締役が二・2・(三)・(2)、(3)及び二・2・(四)の各質問に対し何ら回答せず、あるいは十分な回答をしなかった点は説明義務違反であり、これは計算書類承認決議につき決議方法の法令違反を招来する。

被告は、原告らの質問権の行使が、被告の経営混乱ないし困惑を企図し、あるいは田川の辞任を目的とした悪意のものであるから、権利の濫用に当たり、もしくは説明拒絶につき正当事由があると主張するが、原告らの質問権の行使が専ら右のような動機・目的のみに出たものであるとまでは本件証拠上認められないから、被告の右主張は採用できない。

2  しかしながら、株主総会における株主からの個々の質問事項に対する説明義務の有無及び範囲は、必ずしも一義的に明白なものではなく、特に本件のごとき計算書類承認議案に関しては、説明義務が問題となる事項は相当広範であり(営業状況、資産状況その他会社に関するあらゆる状況が問題となり得る。)、かつ、個々の質問事項についての説明義務の有無及び範囲の判断は事案に応じて個別的、相対的で極めて困難を伴うものであるところ、もし、多岐にわたる質問事項の一部でも結果的に説明義務違反があったと評価されれば、常に計算書類承認決議取消の結果を招来するというのは相当と思われず、株主総会の円滑な運営及び法的安定性の確保にも配慮が必要というべきである。

3  しかるところ、本件において、二・2・(三)・(2)、(3)及び二・2・(四)の各質問事項は計算書類承認決議の賛否の判断に必要な各種の情報の一部に過ぎないし、前記認定事実によれば、被告と島根日交など関連会社2社との相互無償使用協定や被告と日交整備など関連会社4社との取引は、もともと原告の代表取締役であった澤春蔵や澤巖が被告の代表取締役であった当時から始まり、その後長年月にわたり反復継続して行なわれて来たものであり、原告らにおいておおよその貸借状況や取引形態は認識していたと認められる。

その上、相互無償使用については、運輸協定として運輸大臣の認可を受けており、その目的、効果において公衆の利便を増進するものと認められたものと推認でき(道路運送法18条2項)、また、関連会社間の共存共栄にも資するものであるし、相互無償使用はそれぞれの施設所有者に新たな財産的負担を強いるものではないから、厳格に等価になるよう清算しなければ不当・不合理であるとは認め難い。そして、本件では、協定とは時期は異なるが、被告において土地の評価を鑑定士に依頼し、その評価をもとにある程度等価ではないかと判断したもので、一応の配慮はしていること(証人田中)、相互無償使用は車庫、配車係の移転で必要がなくなったため第43期営業年度の途中で止め、被告所有の松江市大輪町営業所と島根日交所有の大田市大田町の営業所についてのみ被告と島根日交との間で賃貸借契約を結んだが、被告の支払う賃料が月額約20万円、島根日交が月額約7万5000円であり(証人田中)、相互無償使用によって関連2社のみが被告の犠牲の下に利益を得ていたとも断じ難いこと、また、右の無償使用協定が商法294条の2第1項にいう株主の権利行使に関しなされたとの推定が働く余地は叙上の事情の下では乏しいことに照らせば、被告の二・2・(三)・(2)、(3)の質問に対する回答が十分でなかったとしても、その瑕疵は軽微であり、被告がその説明義務の範囲内で十分な説明を尽くしたとしても本件決議の結論を左右するような問題が露呈したとは考えられない。

また、被告と関連会社4社との取引については、被告は従前から、前記関連会社4社との取引内容については逐一経費元帳等の会計帳簿に記載しており、これを閲覧すれば取引量、取引額等の取引の明細を把握することができ、原告らは、昭和53年ころから被告の会計帳簿を定時株主総会の開催前に閲覧謄写し、これを検討の上株主総会に出席しているが(例えば、原告らは、右帳簿からタクシー代行の経費に該当するものを丹念に拾い上げ、その収支計算をするといった手間のかかる検討作業を現に行なっている(甲23、24、証人澤)。)、従前の株主総会で被告と右関連会社4社との取引につき具体的な疑義を指摘したことはなく、本件総会に際しても、原告らは被告の会計帳簿を事前に閲覧謄写した上本件総会に出席したものであるが、本件質問事項書における原告らの二・2・(四)の質問事項について田中が正常な取引をし、経費として正確に処理しており、矛盾等があれば具体的に説明して頂きたい旨回答したのに対し、原告らは、他の質問事項については口頭で種々補足質問を行なったが、右質問事項については格別具体的疑義を指摘しての補足質問を行なうこともなく終わったことなどの事実が認められ(甲1、23、31、32、33の1、43の1、2、乙5、6、30の1ないし4、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)、右認定説示によれば、被告取締役が二・2・(四)の質問に右のごとく述べるのみで具体的に回答しなかった点の説明義務違反は、さ程重大なものとはいえず、右説明義務違反の点で計算書類承認決議の決議方法に法令違反があるとしても、その瑕疵の程度は軽微であって、仮に被告取締役が右質問に対し説明義務の範囲内で回答していたとしても、右決議の賛否の判断を左右するような問題が露呈した可能性は存しない。

4  すると、本件総会には被告の株主全員が出席しており、計算書類承認決議は少なくとも原告らを除く株主全員(その持株割合は約79.2パーセント)の賛成多数により可決されたことなど諸般の事情を勘案すると、右瑕疵は決議の結果に影響を及ぼさなかったものと認めて差し支えない。

よって、計算書類承認決議の取消請求については、当裁判所は、商法251条を適用して裁量により棄却することとする。

なお、右説示に照らすと、右説明義務違反が計算書類承認決議の決議方法の著しい不公正をもたらすとも認め難い。

四  結論

以上により、原告らの本訴請求を全て棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中澄夫 裁判官 宮本由美子 裁判官 甲斐野正行)

別紙

質問事項目録

一 営業報告書の報告に関して

被告の今後の経営体制について

1 どのような全体構想が描かれているか。特に田川社長の後継問題をどのように考えているか。

2 指導体制、業務分担及び責任の所在についてどのように考えているか。

二 計算書類承認議案に関して

1 部門別、地区別の収支状況等について

(一) バス部門について

認可車輌台数、乗務員数、管理職の人数、その他間接人員数、運送収入、経費の明細及び前期との増減の状況

(二) タクシー部門について

(1) 営業所の配置状況

(2) 営業所別の、認可車輌台数、乗務員数、管理職の人数、その他間接人員数、無線の体制(関連会社と一体運営を行なっている地区がある場合はその状況)、運送収入、経費の明細及び前期との増減の状況

2 関連会社との関係について

(一) 担当者の所属等に関して

(1) 関連会社との間での、配車係、庶務及び会計の3業務を始めとした間接人員の配置、所属及び費用分担状況。

(2) 田中専務が、第37期定時株主総会において島根日交及びクラウンタクシーからそれぞれ受領していると説明した費用分担金180万円の算出根拠、第40期における分担金額及び右金額の当否。

(二) 経費分担に関して

(1) 関連会社との経費の分担は、具体的にいかなる費用について、どの関連会社にいくら分担させているか。NTTタウンページの被告及び関連会社の広告掲載料及び会社別の負担額如何。

(2) 費用分担の契約書は作成されているか否か。作成されていない場合はその理由。

(三) 不動産の貸借に関して

被告の関連会社との間の不動産の貸借について、

(1) 田中専務が第39期定時株主総会において作成する予定であると回答した各社相互利用による使用貸借契約書は作成されたか。作成していない場合はその理由。

(2) 具体的にどの会社所有のどの物件をどの会社が利用しているのか。

(3) 賃貸借契約ではなく使用貸借契約を締結するという理由。

(四) 関連会社との取引に関して

被告と関連会社との年間取引額及び取引内容についての会社別の明細。

(五) 貸付金に関して

(1) 被告と関連会社との金銭貸借の状況。

(2) 第38期以降の計算書に計上されている、被告から関連会社への貸付金は不当な利益供与ではないのか。右貸付金はその後どうなったのか。

3 タクシー代行について

第38期ないし第40期における被告のタクシー代行営業の具体的収支状況及び決算書と実情がくいちがう場合はその理由。

4 簸川郡大社町大字杵築東所在の土地に関する事項

(一) 被告決算書附属明細書の減価償却明細書に記載されている「緑化施設」、「緑化庭園」、「緑化設備」及び「庭園」についてのそれぞれの位置、内容及び取得年月日。

(二) 町道真名井矢野線よりも東側にある字五反配115番1の土地について、田中専務は第38期定時株主総会において「安田が絶対に売らないと言っているので買収は困難である。」と説明したのに対し、田川社長は松江地方裁判所昭和63年ワ第41号取締役責任追及事件において、平成元年10月4日に行われた被告本人尋問において右土地は買収済みである旨供述しているが、被告は右土地を買収しているのか否か。もし買収しているのであればその所有権保全のためにどのような措置を講じているのか。講じていないときはその理由。

(三) 町道真名井矢野線より東側の土地の有効利用について、被告の現況ないしは対処すべき課題としてどのような処理方針を定めたか。定めた場合は着手の有無と今後の見通し、定めていない場合はその理由。

(四)(1) 建設仮勘定に計上されている町道真名井・矢野線より西側の土地について、権利保全策を講じているか否か。講じている場合はその内容、講じていない場合はその理由。

売買契約時に農地であった右土地がその後に非農地化したことによって農地法5条の許可がなくてもその所有権が被告に移転したといえるか否かに関しての被告の見解及びその根拠。

(2) 右土地についての町役場による測量の利害関係人は誰々か。測量は実施されたか。実施された場合利害関係人のうち誰が立ち会ったか。公図の訂正、地積更正などの手続は行なわれたか。行なわれた場合はその結果、行なわれていない場合はその理由及び今後の見通し。

(3) 右土地について不動産鑑定士に依頼して時価の鑑定評価を行なったか。行なった場合は、どの鑑定士に、どのような前提に基づいて依頼したか、その鑑定結果はどうであったか。鑑定を行なっていない場合はその理由。

(4) 右土地の出雲大社との間の売却交渉の進展状況及び今後の見通し。

5 松江地方裁判所昭和63年ワ第41号事件に対する補助参加について

右事件の訴訟関係費の支出状況及び右事件の被告である被告取締役と被告との費用の分担状況。

6 利益金処分案について

第35期以降における被告の配当性向は、第36期決算における13.68パーセントを最高として第38期においては当期未処分利益が前期比で211パーセントも増加したにもかかわらず配当性向は7.59パーセントに低下し、かつ実質上無借金経営が達成されたと思われる第39期の利益金処分案においても配当性向は7.32パーセントという低率に止まっている。

被告の配当政策如何。

以上

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